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上山八幡宮波来(南三陸町)Pilgrimage site

上山八幡宮波来、南三陸町防 災対策庁舎跡
◇こころのみちの物語 「大きなまなざしの中で」 
          
大津波は、鳥居の手前で止まり、そして、海に戻ってゆきました。

その形跡を見て、当時4歳だった息子が呟きました。
おかあさん、なみが、ここでとまったのは、かみさまが、なみさん、ここからは人だけですよ、って、いったからじゃない?なみ、はいるな!っていったら、はいってたかもねえ…
神さまも私たちと同じように、祈っていた、というのです。それも静かに。
私は、本当にそうかもしれないと思いました。

鎌倉時代から続いている上山八幡宮のお宮が鎮座した場所は、その長い歴史の中で3回変わっています。
町の西側の山の麓から、町の中心部の川沿いへ。
そして昭和35年のチリ地震津波で水害を被った10年後には、次の大津波を予測して、なんと一晩で、高台へお宮を上げたそうです。
そのお蔭で、今回の津波では被災を免れることが出来ました。

歴史を紐解くと、私が生まれ育った三陸の小さな港町は、1000年前の貞観(じょうがん)地震から、少なくとも5回、大津波に襲われていました。
慶長三陸地震、三陸沖地震、三陸地震津波、チリ地震津波。そして、東日本大震災。

1000年に一度、と言われながら、実は数多くの大津波を受けてきた町の記憶を知って、私は初めて、それまで当たり前のように、淡々と過ごしてきた町並みが、実はたくさんの涙や悲しみといった苦難の中で、何度も立ち上がりながら形成され、ようやくそこに広がっていた「祈りの地」であったことに気づきました。

同時に、自分という命は、長い道を未来につなげてゆくための「一点」である、ということにも気づきました。自分の為だけにちいさく回っていた時間が、長い長い道をつなぐための時間だと気づいた時、私は「生きる」ということに迷わなくなりました。

天災と共に生きる場所を変えてきた神さまの、大きなまなざしの中で、私はただただ、未来につながる一点として、この地に根づきたいと思っています。

【(南三陸町)上山八幡宮 禰宜 工藤真弓氏】


◇こころのみちの物語「後世に語り継ぐ~南三陸町防災庁舎と上山八幡宮の物語~」

母校の石巻高校の同級生4人が津波で命を落とした東日本大震災から3年半余り経過した。聞けば、うち2人は両親を助けに自宅に戻って津波に浚われたとのこと。彼らの顔を思い浮かべながら、自分ならばどうしていただろうと考えてしまう。
三陸地方に「津波てんでんこ」という言い伝えがあるという。'自分の身は自分で守れ''家族も逃げているはずだ'と信じろと先人たちは教えている。
しかし、想定もしていない状況下で、自力で避難することが難しいと判っていれば家族を助けるために戻るのが人として当然ではないかとも思われる。助けに行かないで自分だけ助かったら、一生後悔し続けるだろうとも考えてしまう。

先日、南三陸町を訪問しました。震災遺構とすべきかどうか検討されている防災庁舎跡の鉄骨が間近くに見える小高い丘の中腹にある神社(上山八幡宮)に立寄った。
神主さんからチリ地震津波と同様の高さまで津波が押し寄せた地点を案内していただいた。そこには、すでに碑があり「大津波がたどり着いて来た波来の地、犠牲者への鎮魂と慰霊の思いを込め、災いをはらい、復興支援者への敬意をはらい、永久に注意をはらい続けることを願う」と記されていた。津波はここまでも辿り着くのだということを伝えている。
チリ地震津波の教訓から、毎年5月24日の防災の日には、すぐ横の高台に登る訓練を指導してきた町職員がなぜ防災庁舎に残ったのか残念で仕方がないと話されていたのが心に残っている。
かつての南三陸町の中心市街地は、あたり一面何もなく、ただ嵩上げ造成工事のダンプカーが往来しているだけである。復興するまで何年かかるのだろうか。再建された魚屋さんに立寄った。3年ぶりにとれた大きなホヤを自慢げに説明してくれたおばさんの笑顔が目に浮かぶ。何年掛かってもこのホヤと笑顔がある限り復興していくのだろうと思う。
人間の一生と大津波がやって来る100年?1,000年とではあまりにギャップがある。世代を超えて語りつぐことの大切さを改めて痛感する。しかし、震災から僅か3年しか経過していないのに、教訓がどこまで生かされているのだろうかと疑問に思うことがある。
多くの被災地では車で逃げようとした人々が渋滞で身動きがとれずに亡くなっている。停電で信号機が機能しなかった道路を元どおりの広さで復旧させてどうするのか。鉄筋コンクリートなどの人工物の耐用年数は人の平均寿命より短い。次の大津波までに、後世の人々が造り直さなければならないのだろうか。

(一般社団法人東北お遍路プロジェクト理事 下山誠)

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